ドジで間抜けな逮捕劇——なりすましカード詐欺【元ヤクザ《生き直し》人生録】
【塀の中はワンダーランドVol.4】ドジで間抜けな逮捕劇
◼️債権回収時、愛車にあの「マーク」イタズラ書きされ
「ちくしょー、またやられたか……」
腹立たしさと同時に、ボクの意識は過去に愛車レクサスのバンパーを悪戯されたときにフィードバックした。何かの金属片でバンパー一面に、例の東京都のマークに似た女性器の絵をアートされていたのだった。
ボクはその頃、債権の回収が仕事の一つだった。そんなある日、悪戯されたままのレクサスを駆って債権回収先の会社の入口に乗りつけたのだが、これがそもそもの失敗の始まりだった。
「社長さん、この手形、知ってますよね。おたくの社員がこの手形で松山の『B』という宝石商から、卸値で1000万円相当の真珠のネックレスをパクリましたよね、手形差し替えて。その金額と慰謝料を、合わせて1300万円、返済してもらおうか」
この債権は四国松山のある代議士を通して、兄貴分となっている某建設会社の社長からコミッションされたものであった。
「あんさん、何言うてまんねん。以前うちにおった社員が勝手にやったことでっしゃろ。そやから、わしは関係おまへんがな」
アゴの張った感じが一筋縄ではいかない狡猾さを現わしていた。
ふてぶてしく居直る社長にボクは凄んでみせる。
「おい! 社長さんよ。社員は会社の命令でやってるんじゃねぇのか。その命令は社長命令だろうが……。とぼけてんじゃねえぞ!」
そのとき、踏ん反り返る社長席の背面の窓越しに、表に停めてあるレクサスの周囲でランドセルを背負った学校帰りの小学生たちの姿がちらちら見え隠れしているのに気づいた。
「この車、ボクのお父さんの車と同じだけど、ハンドルが左についてるぞ。変だなぁ?」
一人の小学生が運転席を覗いて呟いた。
すると、バンパーのところでうろちょろしていた数人のガキのうちの一人が戯けた調子でわめいたのだ。
「スゲー! この車、でっけぇお○○ちょの絵が描いてあるぞ。ねえねえ、見て見てぇ!」
この声に、周りにいたガキどもがいっせいにバンパーの前に集まってきた。そしてアートされた悪戯描きの絵を見ると、口を揃えて叫んだのである。
「うわぁー、出たぁー。ウルトラお○○ちょだぁー!」
ませたガキの一人が言った。
「どうだ、匂うか?」
するとガキどもはいっせいにレクサスのバンパーに鼻ツラを押し当てて、くんくんと匂いを嗅ぎ、「うわぁー、臭せぇぞー!」素頓狂(すっとんきょう)な歓声を上げると、蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまった。
それらの声が耳に聞こえていたことから、ボクはすでに屈辱にまみれ、テルモの赤キャップ(注射器のキャップ)のように顔を赤くしていた。
そんなボクの目の前では、傲岸不遜な態度で踏ん反り返る社長が、笑いを必死に堪え、身体を小刻みに震わせている。これでは、どっちが追い込まれている状況なのか、まったくわからない。
一緒に行ったボクの弟分はプロレスの故・ジャンボ鶴田に似ていた。その弟分が大きな顔を苦々し気に歪め、「チッ!」と舌打ちをして立ち上がり、表の様子を見に行った。そして少しして戻ってくると、ボクの耳元に口を近づけて言った。
「アニキ、駐禁の輪っかがはまってます。それとバンパーにカラスの糞が……」
その途端、ボクの口から思わず、「くそぉ」というシャレにもならない言葉が飛び出した。余りの情けなさと、状況の焦りによる複雑な思いが頭の中をグルグルと駆け回り、ボクの身体からドッと冷や汗が噴き出る。まさに、弱り目に祟り目だった。
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2020年5月27日
『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!
新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。
「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!
「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。